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映画評 「話す犬を、離す」 [映画評]

私は犬が好きだ。
無条件に好きだ。
犬を見ているだけで、幸せな気分になる。
「話す犬を、離す」は、別に犬が主役の映画ではない。
しかし、要所要所に出てくる犬が実に可愛い
可愛い、と言ってもテリアやマルチーズ的な可愛さではない。
なんというか、犬らしい可愛さである。
これほど犬を可愛いと思わせる映画はあまりなかった気がする。
それが目的の映画ではないだろうけれど。

本作は、レビー小体型認知症を発症した母と、それを支える一人娘の物語である。
認知症といっても、それほど深刻なものではなく、幻視幻聴があるものの、日常生活に大きな支障はない。
それでも、家族としては心配になる。
主人公である娘は女優をしていて、映画出演のチャンスが舞い込むのだが、母の介護に気を遣わざるを得ず、なかなか集中できない。

主人公は、女優として芽が出ていない自分を歯がゆく思っていて、
友人の俳優や俳優の紹介で引き合わされた映画監督も主人公を引っ張り上げようとする。
しかし、認知症の母を一人で支える重みに、徐々に耐え切れなくなっていく。

映画は、それほど暗いトーンで描かれてはおらず、どこかユーモアも漂っている。
だから、大きな破綻はないのではと思って観ていたが、主人公の下す結論は苦いものだった。
通常の映画は甘いハッピーエンドで、そうした苦い決断は周りの支えでひっくり返ったりするのだが、そうはならなかった。
映画としては、それでよかった。

ちょっと残念だったのは、たまたまつけたラジオから流れてきた声に救われるシーン。
「何もつなげられなかった」と後悔する主人公を救済するために、なんらかの手立てをするのは必要であったと思うが、あまりにも偶然に左右される形だったのはちょっと興覚めだった。
ここをこうすれば、とか、ここをもっと真面目に突き詰めてくれれば、とか、いろいろ言いたくなる映画が多いなか、本作はきちんと作られていただけに、ご都合主義になってしまったラジオが残念。

主人公を演じておられたのは、つみきみほさん。
自然な演技で、すっかり役にはまっておられた。
まるで、ドキュメンタリーを見ているような気分にさえなった。

お母さん役の田島令子さんが、またいい味。
素人っぽいとまで思える演技なのだが、それが認知症という自分の状態に戸惑っている姿とうまく重なっていた。

監督は、熊谷まどかさんという女性の方。
ご自身を投影されたのかどうかわからないが、映画の中に出てくる女性映画監督がドタバタされていておかしい。
映画への情熱も、この人物を通して語られていた。

「話す犬を、離す」は、少ない予算で作られた映画であると思うが、それがかえってリアリティを醸しだす効果につながっていた。
認知症がテーマであるが、深刻になり過ぎず、かと言って受け流してもいない。
どんな人が観ても、身につまされるのではないだろうか。

そして、犬が可愛い。
口を開けてハアハアしている姿も、
草原をちょっと飛びながら走って来る姿も、実に可愛かった。

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