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書評 「棋士の一分 将棋界が変わるには」「不屈の棋士」 [読書記録]

昨年末から年初にかけて、将棋界を大きく揺るがす事件が起きた。
大雑把な流れはこんな感じである。
・三浦弘行九段に対して、対局中の将棋ソフト使用による不正の疑いが指摘される。
・三浦九段はソフトの使用を否定したが、将棋連盟は三浦九段を出場停止処分とし、竜王戦の挑戦者を丸山忠久九段に変更。
・第三者調査委員会が調査した結果、「不正行為に及んでいたと認めるに足りる証拠はないと判断した」と結論し、丸山九段への出場停止処分は冤罪と確定。
・日本将棋連盟の谷川浩司会長が辞任を発表。

竜王というタイトルは、一般的な知名度は「名人」や「王将」より低いかもしれないが、実際には非常に格式が高い。
名人と並び称される位置にあり、賞金面ではナンバーワンである。
三浦九段は、その挑戦権をはく奪されたわけであり、損害は測り知れない。
しかし、将棋界が受けたダメージは、それをはるかに上回るものだろう。
結局無実とされたが、今回の騒動で一般の人が持ったイメージは、
「将棋のプロがカンニングかあ」
「将棋のプロって、コンピューターに次の手を教わっているんだ」
「スマホを持って戦えば、誰でもプロに勝てるんだ」
といった感じだっただろう。

私は、将棋ファンではない。
ルールくらいはわかるし、
羽生さんをはじめ、渡辺さん、佐藤さん、森内さんといった一流棋士の名前は知っているし、
加藤一二三さんのいろいろな伝説も聞いたことがあるし、
「聖の青春」を読んで涙を流し、映画も観に行ったし、
子供の頃、新聞の将棋ランを見てわかりもしないのに大内延介さんを勝手に応援していたこともあったが、
ファンと言えるようなレベルではない。
だから、今回のことも野次馬気分で眺めていた。
書店で、「棋士の一分 将棋界が変わるには」を見かけたときも、「へえ、ハッシーが本書いたんだ」という感じだった。
ハッシーとは、この本の著者である橋本崇載さんのニックネームである。
将棋ファンではない私が、なぜタイトルホルダーでもない彼のことを知っているかというと、その個性的な振る舞いによってである。
特に、NHK杯テレビ将棋トーナメントで抱負を述べる際のはじけ方は、棋士という枠を超えて話題を呼んだ。
(動画はこちらで https://www.youtube.com/watch?v=eRHXu7kQu3g

だから、「棋士の一分」にも、ハッシーがパフォーマンスの裏で考えていることや、これからの目標、将棋界に言いたいことなどが、面白おかしく、それでいて鋭く書かれているものと思った。
しかし、内容はほぼ全編、将棋界とコンピューターとの接し方についての持論に終始していた。
つづめて言うと、将棋界はコンピューターに関わるな、ということになろうかと思う。
一つの見識とは思うが、その話ばかりなので、正直なところ興味を持ち続けるのが難しく、本としてはイマイチな感じだった。

「棋士の一分」読了後、三浦九段に関する出来事で騒ぎが広がってもいたので、もう少し将棋とコンピューターのかかわりについて知りたくなった。
そこで、読み始めたのが、大川慎太郎さんによる「不屈の棋士」である。
大川さんは将棋記者であり、長く将棋界を見つめておられる。
インタビューによって構成されているこの本には、11人の棋士が登場してくる。
すなわち、羽生善治、渡辺 明、勝又清和、西尾 明、千田翔太、山崎隆之、村山慈明、森内俊之、糸谷哲郎、佐藤康光、行方尚史といった面々である。
羽生さんと渡辺さんは、最強棋士として、コンピューターには絶対負けられない立場からの発言をされている。
勝又さん、西尾さん、千田さんはソフトを使いこなす最前線の棋士として、
その他の人たちも、それぞれの立場からコンピューターについて述べている。
はっきりしているのは、コンピューターはトップ棋士のレベルに完全に追いついていること、一手一手「評価値」というものが出され、好手か悪手か、すぐにコンピューターが判断する時代になっていること、であった。
また、コンピューター将棋が人間を超えることによって、棋士の存在価値が脅かされていること、その点についての考え方が、棋士によって異なっていること、がよくわかった。
今回の騒動に心を動かされた人であれば、将棋に関心がある人もない人にもおすすめの一冊である。
プロに対するインタビュー集として、将棋という世界を離れても、十分に楽しめた。

さて、チェスではとっくに人間はコンピューターに敗れているが、それでチェスが廃れたとも聞いていない。
将棋も、同じだと思う。
将棋が廃れるとしたら、きっと別の要因である。
コンピューターに負けるかどうかではなく、プロとして見るに値するような戦いを見せ続けられるかどうかによって、将棋界の未来は決まって来る。
プロには、勝ち負けや強弱を超えた何かが必要である。
また、世代や性別や国境を超えた普及も必要になってくるだろう。

日曜の午前、Eテレで将棋番組が放送されている。
特に見はしないのだが、なんとなく安心する。
ずっと残ってほしいし、残り続けると思う。

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